曲のどアタマから、びっくりした。
〈ワナ! ワナ! ワーナー!〉なのである。ザ・ヴィーナスが1981年に放ったヒットナンバー 「キッスは目にして!」をオマージュした〈ワナ〉がもう頭から離れない。あいだに入るティンパニー の男性っぽい迫力とサーフミュージックを彷彿とさせる、か細くも華やかな女性っぽいエレキギター サウンドが絡まり、Q.タランティーノの映画を彷彿とさせる雰囲気で幕を開ける物語は、 何やらのっぴきならない恋の行方だ。
ボーカルには成田昭次をフィーチャリング、というか完全にデュ エットの世界が繰り広げられる。タイトルの言葉遣い、サウン ド、歌のムードと有り余る和感を身に纏いながらも、ただのナ ツメロにならないのがLittle Black Dress流の歌謡曲だと 言える。特に歌詞の世界観が圧倒的に過剰で、かつ感覚的、 こちらはまさに令和ならではといった趣だ。「人と人を繋いで くれる曲になって欲しいと願って詞を書かせてもらいました」 と本人が言うとおり、歌詞の中で描かれるシド・アンド・ナン シーのような破滅的な男女の恋の裏側に、コロナ禍で人と人と がなかなか直接会えない現状を読み取るのは、今を生きる我々 だからこそ可能だ。
Little Black Dressが描く、時代を超越した歌謡曲―― 危さの漂う物語の果てに何を見るか? 大切なものを手渡され る確かな感触の残る楽曲だ。
そして、すべてのリスナーの中でそれぞれの物語が始まる。